息切れ、むくみ…それ、年のせいではないかもしれません?
「動くと息切れがするけど、歳のせいだから仕方ないか」「足がむくみやすい」…心当たりのある方はいらっしゃいませんか?
もしかしたらその症状は心不全のサインかもしれません。心不全は日本に約120万人いるとも言われ、決して珍しい病気ではありません。心不全は誰でもかかる可能性のある、身近な病気です。一度かかると適切な治療がなければ進行し、命に関わることも少なくない病気です。だからこそ、早期発見・早期治療が非常に重要です。
心不全とはどんな病気?
心不全とは心臓のポンプ機能が様々な原因で弱くなり、全身に十分な血液を送れなくなる状態を指します。心不全は高血圧、糖尿病、心筋梗塞や弁膜症などの病気の最終的な着地点として現れます。そのため心不全は特定の病気の名前ではなく、色々な原因があり、それらがいくつか組み合わさって起きる症候群です。
日本循環器学会は心不全を以下のように説明しています。
「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」
この定義より心不全は一度発症すると、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら徐々に進行していく、一生付き合っていく慢性的な病気です。
心不全の代表的な症状
心不全の初期症状は他の病気や加齢によるものと間違えられやすいものが多いです。
以下の項目に心当たりはありませんか?
・息切れ:階段を登るのが数ヶ月前に比べて明らかに辛い。夜、横になると咳が出たり、息苦しくて寝られない。
・むくみ:
心不全の原因にアプローチする
心不全は多くの場合、様々な病気が原因となり引き起こされることが多いです。
当院では心不全の治療と同時に、心不全を起こしている原因の解明を重視しています。
心不全を起こす主な原因として以下のような病気があります。
- 高血圧
血圧の高い状態が続くと心臓は常に高い圧力に逆らい血圧を送り出すため、心臓の筋肉が厚く硬くなり(心臓肥大)、ポンプ機能が低下します。
- 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
心臓を栄養する血管(冠動脈)が動脈硬化で詰まったり、狭くなったりすることにより、心臓の筋肉が酸素不足に陥り、ポンプ機能が低下します。
- 心臓弁膜症
心臓の部屋をつなぐ弁の機能に異常があると、血液の逆流や停滞が起こり、心臓に負担がかかります。
- 不整脈
心臓の脈拍が不規則になることにより、心臓が血液を送り出すタイミングがずれ、心臓が送り出す血液の量が少なくなってしまします。
- 心筋症
遺伝的な要素で心室が拡張したり、心臓の筋肉が肥大し、ポンプ機能が低下します。
診察の流れ
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問診と診察
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心電図
心臓の肥大や不整脈、心筋梗塞の痕がないかなどを確認します。 -
胸部レントゲン
心拡大の程度や胸に水が溜まっていないかなどをチェックします。 -
心臓潮音検査
心臓のポンプ機能や弁の状態をリアルタイムで確認します。 -
血液検査
心臓に負担がかかると上昇するタンパク質(BNP)を測定し、心不全の診断の参考にします。また腎臓や肝臓の機能を確認し、薬剤の選択や用量の調整をします。
心不全の分類
心不全を診察する上で医師が重要視する指標の一つに「EF(イーエフ)」というものがあります。これは心臓が最も拡張した時と、収縮したさいの大きさを比率で表した数値であり、55-60%程度が正常値となります。心臓超音波検査をすることで計算できます。このEFが40%未満か、50%以上で薬物療法は大きく変わります。40-50%の方の治療法はまだ議論されています。
心不全の治療
薬物以外の治療
心不全は様々な原因が組み合わさった病気であるため、心不全の原因に対する治療が重要です。
- 冠動脈疾患
心臓を栄養する血管である冠動脈が動脈硬化により狭くなったり、詰まったりしている場合はカテーテル治療をお勧めすることがあります。
- 弁膜症
加齢により心臓の血液の流れを調節する弁が劣化することにより心不全が起きている場合、手術またはカテーテル治療をお勧めすることがあります。
- 不整脈
不整脈による脈の乱れで心臓のポンプ機能が低下している、または有効に血液を全身に送り出せない場合、カテーテルによるアブレーション治療をお勧めすることがあります。また心臓の右側と左側の部屋がうまく連動していない場合、CRTという特殊なペースメーカーを入れることがあります。
薬物の治療
βブロッカー(アーチストやメインテート):古くからある代表的な心不全の薬で、交感神経の働きを抑えることにより、血圧と脈拍数を下げます。イメージトしては「心臓を休ませてあげる」薬です。
ARB(アジルバやディオバン)またはACE阻害薬(レニベースなど):こちらも古くからある心不全の薬です。血圧を上げるホルモンであるアルドステロンの作用を阻害することにより血圧を下げ、心臓の負担を軽減します。また腎臓を保護する作用もあることがわっていますが、もともと腎臓の機能が悪いとさらに悪化させてしまうこともあり、処方するときは定期的な採血(3ヶ月おき)で腎臓の機能を確認する必要があります。
ARNI(エンレスト):比較的新強い薬剤であり、前述のARBに「ネプリライシン」という、利尿作用や血管拡張作用により心臓の負担を軽減するホルモンを追加したお薬となります。高血圧の薬としても使われます。
MRA(アルダクトン、セララ):こちらは古くからある心不全の薬です。血圧を上げるアルドステロンというホルモンの働きを阻害し、利尿作用があります。腎臓が悪い方ではカリウムの値が上昇することがあるため、注意が必要です。アルダクトンというお薬は女性化乳房といい、胸が張ったり痛みを訴える方がいるため、その場合はセララというお薬に切り替えます。
SGLT2阻害薬(フォシーガ、ジャディアンス):比較的最近のお薬です。腎臓に作用し、尿中に糖を排出することで血糖を下げる、糖尿病の薬として開発された薬です。その後、心臓や腎臓にも良い影響があることがわかりました。利尿剤であるため脱水が起こることや、尿中に糖分が出るため、尿路の感染症が出ることがあるため注意が必要です。
という薬が心不全の症状の改善や予後改善効果が科学的に証明されています。ご覧のように種類が多く、専門医でないとどの薬をどのくらいの量から始め、症状が改善しない場合、次にどの薬を足すのかという判断は難しいです。
またEFが50%以上の場合、科学的な裏付けのある心不全の薬はいまのところ、SGLT2阻害薬のみとなります。
これらの薬を一人ひとりの患者様の状態や背景に併せて処方いたします。
心不全は早期発見・早期治療が非常に重要な病気です。また心不全と診断後は定期的な通院による治療や検査も重要です。「年のせいだろう」と放置すると症状が急激に悪化し、入院が必要ということもありえます。
当院では地域のお住まいの皆様の健康をサポートする循環器内科として、患者様一人ひとりに合わせた丁寧な診療を心がけています。
息切れやむくみなど、少しでも気になる症状があれば、お気軽にご相談ください。