はじめに
冬季に流行するインフルエンザは単なる風邪とは異なり、急激な発熱や全身症状を伴い、時に合併症を引き起こすことがあります。特に高齢者や基礎疾患(心臓や肺疾患、免疫不全など)をお持ちの方は、肺炎や心不全などのリスクが高まるため、早期の診断・適切な対応が重要です。横浜市神奈川区・片倉町の金子内科では、地域のかかりつけ医として、インフルエンザの「症状・検査・治療・予防」についてわかりやすく解説します。
そもそもインフルエンザとは
インフルエンザは、何世紀にもわたって人類と共に歩んできた感染症です。最初の大流行が記録されたのは16世紀。その後も、1918年の「スペインかぜ」では世界で数千万人が亡くなり、社会全体に深刻な影響を与えました。
20世紀後半にはA型・B型ウイルスの性質が詳しく解明され、ワクチンの開発が進歩。現在では毎年流行するウイルス株を予測してワクチンを作り替えることで、重症化を防ぐ体制が整っています。
インフルエンザは、インフルエンザウイルス(主にA型・B型)によって引き起こされる急性の呼吸器感染症です。一般的な風邪と比べて、次のような特徴があります。
- 突然の高熱(38℃以上)や寒気
- 全身の倦怠感、筋肉・関節の痛みが強い
- 咳・のどの痛み・鼻水などの上気道症状
- 小児では時に吐き気・嘔吐・下痢を伴うこともあります
- 主な感染経路は、飛沫感染(くしゃみ・咳)および接触感染(ウイルスが付着した物品を介して)です。また、毎年11月後半から流行が始まり、12月〜3月にかけてピークを迎える傾向があります。
- 横浜市では2020〜2022年ではコロナ禍による外出制限でほとんど発生しませんでしたが、2023と2024年では11月より徐々に増え始め、12から1月にかけてピークを迎える傾向があります。
- 日本では毎年およそ1千万人程度の感染者、約10人に1人が感染しています。

出典:横浜市ホームページより(https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/kenko-iryo/eiken/idsc.html)
主な症状
高熱・寒気
発症後数時間から急激に38〜40℃前後の高熱が出ることが多く、震えや強い寒気を伴うことがあります。
全身倦怠感・筋肉痛・関節痛
インフルエンザはウイルスへの免疫反応が強く起きるため、筋肉痛・関節痛・強いだるさを感じることが特徴です。
上気道症状
のどの痛み・咳・鼻水・鼻づまりを伴うことがありますが、これらよりも全身症状が目立つことが多いです。
消化器症状(特に小児)
13歳未満の小児では、時に嘔吐・下痢などの消化器症状を伴うことがあり、「風邪かな」と自己判断して見逃されるケースがあります。
これらの症状が軽くても、インフルエンザの感染者と接触したことがあれば、私の経験上はインフルエンザ陽性である可能性は十分あります。そのため、症状が軽くても問診の内容次第では、インフルエンザの検査を当院では積極的に行っています。

インフルエンザと一般的な風邪の違い
| 項目 | インフルエンザ | 一般的な風邪 |
| 発症の速さ | 急激(数時間で高熱) | 徐々に症状が出る |
| 熱の高さ | 38℃以上が多い | 微熱~37℃台前半が多い |
| 全身症状 | 強い倦怠感・筋肉痛が出やすい | 軽めのだるさ・異和感程度 |
| 合併症の可能性 | 肺炎・心不全・脳症など重篤化リスクあり | 低め |
| 流行期 | 冬季(11月〜3月) | 通年または季節の変わり目 |
検査方法
抗原検査(迅速診断キット)
鼻やのどの粘液を採取し、約15分ほどで陽性/陰性を判定できます。ただし、発症早期(12時間以内など)ではウイルス量が少ないため、陰性でも再検査が推奨される場合があります。24時間以上経過してからの検査の方が、信頼性が高いです。
治療
抗インフルエンザ薬
発症から48時間以内に適切に服用することで、症状の期間を短縮し、重症化を防ぐ効果があります。主な薬剤には次のものがあります。
- オセルタミビル(例:タミフル®)…内服薬、通常5日間
- ザナミビル(例:リレンザ®)…吸入薬、通常5日間
- ラニナミビル(例:イナビル®)…1回吸入で完了する
- バロキサビル(例:ゾフルーザ®)…1回内服で完結することもあります
※薬剤の種類選択は患者さまの年齢・持病・妊娠状態などを踏まえて医師が判断します。
対症療法・休養
解熱剤・咳止め薬の使用、水分補給、十分な休養・安静が重要です。特に発症直後は外出や職場・学校への出席を控え、ウイルス拡散を防ぐ配慮も大切です。
受診する目安
以下のような症状や状況がある場合は、早めに受診をご検討ください。
- 急に38℃以上の高熱が出た
- 全身のだるさ・筋肉痛・関節痛が強い
- 周囲(家族・職場・学校)でインフルエンザの発症例が出ている
- 高齢者・小児・妊婦・心臓・肺・腎臓などの基礎疾患をお持ちの方
金子内科では、迅速検査・診断・必要に応じた処方を迅速に行います。
合併症に注意すべき方
- 65歳以上の高齢者
- 小児(特に5歳以下)
- 妊娠中の方
- 心臓・肺・腎臓・糖尿病などの慢性疾患をお持ちの方
これらの方はインフルエンザから「肺炎・心不全・脳症」などの深刻な合併症を起こす可能性が上昇するため、発熱・倦怠感などがあれば早めの受診がおすすめです。
予防法
ワクチンの接種
インフルエンザワクチンは、毎年流行が予測されるウイルス株をもとに作られます。
世界中でインフルエンザウイルスの流行状況が監視されており、WHO(世界保健機関)が毎年2回、「次のシーズンに流行する可能性が高い型(株)」を発表します。
日本ではこれをもとに、厚生労働省が国内で使用するワクチン株を決定します。インフルエンザワクチンはその製造方法により、「不活化ワクチン」という種類のワクチンとなります。不活化ワクチンとは、ウイルスや細菌の感染力をなくした(=不活化した)成分を使って作られたワクチンです。
体の中で実際に病気を起こすことはありませんが、免疫がその成分を“敵”と認識して、将来同じ病原体が入ってきたときに素早く守る力(免疫)を作ってくれます。
製造の仕組み(一般的な不活化ワクチンの場合)
- 選定されたウイルス株を鶏卵の中で増やす
受精卵(有精卵)の中にウイルスを接種し、一定期間培養して増やします。 - ウイルスを取り出して不活化(感染性をなくす)
ホルマリンなどでウイルスを処理し、感染力を完全に失わせます。 - 精製して、免疫を刺激する部分(抗原)だけを残す
不必要なタンパクや卵成分を除去し、安全性を高めます。 - 複数の型を混ぜ合わせて最終製品を作る
日本のインフルエンザワクチンは現在「4価ワクチン」で、A型2株とB型2株を含みます。
このようにして作られたワクチンは、体内にウイルスそのものを入れるわけではなく、免疫だけを刺激して抗体を作らせる仕組みです。
接種後、およそ2週間で十分な免疫がつき、4〜5か月ほど効果が持続します。
インフルエンザワクチンは、感染を完全に防ぐものではありませんが、発症率・重症化リスクを大幅に軽減する効果が認められています。毎年、流行株に合わせて型が改変されるため、毎年接種を受けることが推奨されます。接種の適期は概ね10月~12月上旬です。インフルエンザワクチン接種により発症リスクは40~50%低下、入院のリスクも約44%減少したという報告があります。
医療従事者や感染のリスクが高い人達でも発症・重症化抑制効果が確認されており、特に高齢者や小児、持病を持つ方では有意義です。
私が米国に留学していた時ですが、インフルエンザワクチンは薬局で打てました。日本との興味深い違いは、米国ではインフルエンザワクチンは筋肉注射でした。日本では皮下注射です。
日常の感染対策
- 外出後・帰宅後の手洗い・うがい
- 混雑した屋内ではマスクを着用
- 室内の換気・湿度管理(加湿器利用など)
- 咳・くしゃみをする際のエチケット(マスク・ハンカチ・肘当て)
これらの基本的な対策を心がけることで、インフルエンザの流行期における感染リスクを軽減できます。
当院での対応について
金子内科では、インフルエンザの迅速抗原検査を院内で実施しており、適切な検査・診断が可能です。必要に応じて抗インフルエンザ薬を処方し、基礎疾患をお持ちの方や高齢者の体調管理・ワクチン接種にも丁寧に対応しています。当院では地域のかかりつけ医として、患者さま一人ひとりの状況に応じた診療を心がけています。
まとめ
インフルエンザは、流行期において注意すべき感染症であり、高熱・全身症状・倦怠感などを伴った場合には「風邪だから大丈夫」と自己判断せず、早めの受診検討が重要です。ワクチン接種や日常の感染対策を徹底し、症状が出た際には迅速な対応が重症化予防につながります。
当院ではインフルエンザの検査が可能です。発熱・だるさなど気になる症状がある方は、お電話よりご相談ください。
よくある質問
- 風邪とインフルエンザはどう見分ければよいですか?
- 一般的な風邪は症状が徐々に現れ、比較的軽いことが多いですが、インフルエンザは数時間のうちに急激な高熱・強い倦怠感・関節痛などが出るのが特徴です。
自己判断が難しい場合は、早めに医療機関を受診して検査を受けることをおすすめします。
- インフルエンザの検査はいつ受けるのがよいですか?
- 発症から12時間以内ではウイルス量が少なく、検査で陰性になることがあります。発熱から12〜24時間経過した頃が検査の精度が高いタイミングといわれています。ただし、症状が強い場合は時間に関係なく受診してください。
- インフルエンザにかかったら、どのくらい休む必要がありますか?
- 学校保健安全法では、発症した後5日経過し、かつ解熱後2日(小児は3日)を経過するまで登校を控えることが定められています。
社会人の場合も、周囲への感染を防ぐために少なくとも解熱後2日は自宅で安静にするのが望ましいです。
- ワクチンを打っても感染することはありますか?
- あります。インフルエンザワクチンは感染そのものを100%防ぐものではありませんが、発症率の低下と重症化予防に効果が確認されています。
特に高齢者や基礎疾患をお持ちの方は、毎年の接種が推奨されています。
- 妊娠中でもインフルエンザワクチンを受けられますか?
- はい、可能です。インフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、妊娠中でも接種できるとされています。妊婦さんは重症化しやすい傾向があるため、主治医と相談のうえで早めの接種を検討してください。
- 子どもがインフルエンザになった場合、家族はどうすればよいですか?
- 家族内感染を防ぐために、マスクの着用・手洗い・共用物の消毒を徹底してください。特に幼児や高齢者が同居している場合は、部屋を分ける・食器を共有しないなどの工夫が有効です。
医師の判断により、予防投与(抗ウイルス薬)を検討する場合もあります。
- 症状出現から48時間以上が過ぎても、抗インフルエンザ薬の内服は必要でしょうか?
- A. 健康な成人・軽症例の場合、48時間を超えて抗インフルエンザ薬を使用しても有症状期間の短縮効果はほとんど認められず、重症化予防の明確なメリットも示されていません。
一方、重症例や、入院患者、高齢者、妊婦、基礎疾患を持つハイリスク患者については、48時間を過ぎてからでも抗ウイルス薬投与が推奨される場合があります。特に重症化の危険が高い場合は、発症後48時間を超えていても治療の意義があるとされます
- インフルエンザとコロナの症状は似ていますか?
- 両者とも発熱・咳・倦怠感などが共通しますが、検査をしないと区別が難しいことが多いです。当院では「同時検査」を行うことが多いため、どちらの場合でも診断が可能です。
- 家でできる対処法はありますか?
- A. 水分をこまめに取り、しっかり休むことが基本です。
市販の解熱鎮痛薬を使用する場合は、アスピリン系(サリチル酸系)薬は避けるよう注意が必要です。迷った場合は、当院にご相談ください。
- 今年はすでにインフルエンザにかかってしまいました。ワクチンを打つ意味はありますか?
- インフルエンザにはA型やB型など複数の型があり、一度かかっても別の型に再感染することがあります。自然感染で得られる免疫は一部の型にしか働かず、長くは続かないため、その年に流行が予想される株に対応したワクチンを接種する意義があります。
また、ワクチンには感染そのものを防ぐだけでなく、
重症化や合併症(肺炎・心不全・脳症など)を防ぐ効果が期待されます。
発症から回復して体調が落ち着いたあと、1〜2週間ほどあけて接種する意義はあります。
- インフルエンザを予防する一番の方法は?
- ワクチン接種と、手洗い・マスク・換気の3つが基本です。
また、睡眠・栄養バランスを整え、免疫力を下げない生活習慣を心がけることも大切です。
参考文献
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/influenza.html
Guo J, Chen X, Guo Y, Liu M, Li P, Tao Y, Liu Z, Yang Z, Zhan S, Sun F. Real-world effectiveness of seasonal influenza vaccination and age as effect modifier: A systematic review, meta-analysis and meta-regression of test-negative design studies. Vaccine. 2024 Mar 19;42(8):1883-1891.
https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=37