慢性腎臓病(CKD)とは|原因・症状・検査・治療を内科専門医がわかりやすく解説
慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)とは、腎臓の構造または機能の異常が3か月以上続き、健康に影響を与える状態を指します。
日本では成人の約8人に1人がCKDと推定され、生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症)との関連が非常に強い疾患です。
金子内科(横浜市神奈川区・片倉町)では、内科・循環器内科の専門性を生かし、CKDの早期発見・進行抑制・生活習慣病の総合管理を行っています。
CKDは症状がないため、健康診断で初めて腎機能の低下を指摘され、不安になって受診される方が多くいらっしゃいます。
CKDの分類:CGA(Cause・GFR・Albuminuria)システム
CKDの重症度は CGA分類 を用いて評価します。
C(Cause:原因)
・糖尿病(糖尿病腎症)
・高血圧
・加齢による腎機能低下
・糸球体腎炎
・多発性嚢胞腎などの遺伝性疾患
・肥満・脂質異常症
・痛み止め(NSAIDs)の長期使用
G(GFR:腎機能)<
GFR(ジーエフアール)とは、
「腎臓がどれくらい元気に働いているか」を数字で表したものです。
腎臓は、血液をフィルターのように“こして”体の中の余分な水分や老廃物を尿として出しています。
GFR が高いほどフィルターがよく働いている、GFR が低いほど働きが弱くなっていると考えます。
- GFRカテゴリー(eGFR)
腎機能の状態
- G1
≥90(正常~高値)
- G2
60–89(軽度低下)
- G3a
45–59(軽度〜中等度低下)
- G3b
30–44(中等度〜高度低下)
- G4
15–29(高度低下)
- G5
<15(腎不全)
A(アルブミン尿)
- ACR(mg/g)
尿蛋白の状態
- A1
<30(正常~軽度増加)
- A2
30–300(中等度増加)
- A3
>300(高度増加)
1. CKDの評価(診断・検査)
検査で偶然みつかった異常は必ず“再検査”が必要
・尿アルブミン/クレアチニン比(ACR)
・血尿
・eGFR低下
これらが一度でも出た場合、CKDと診断するには原則として2回以上の確認が必要です。
腎臓病の原因を特定する検査
・病歴(家族歴・生活習慣)
・服薬歴(NSAIDsなどは腎障害の原因に)
・身体診察
・尿検査・血液検査
・腎エコーなど画像検査
・腎生検(必要時)
・遺伝子検査
特に若年発症や原因不明のCKDでは遺伝子検査が有用なことがあります。
腎機能(GFR)の正確な評価方法
・eGFRcr(クレアチニン)
・eGFRcys(シスタチンC)
・eGFRcr-cys(両者併用)
特に肥満、筋肉量が少ない高齢者では eGFRcr-cys の方が精度が高い場合があります。
2. CKDのリスク評価とフォローアップ
進行リスクは「GFR × アルブミン尿」で決まる
GFRが低く、アルブミン尿が多いほど、腎不全や心血管病のリスクは高まります。
専門医紹介の基準(例)
・5年以内の腎不全リスクが3〜5%以上
・eGFR低下ペースが速い
・アルブミン尿A3
・高度の高血圧や電解質異常
金子内科では、必要に応じて腎臓専門医(横浜市立市民病院、横浜労災病院、済生会神奈川県病院など)と連携し、適切なタイミングで紹介を行います。
3. CKD進行を遅らせる治療と合併症管理
生活習慣・食事療法
推奨される食事
①植物性食品を増やす
植物性食品(しょくぶつせい しょくひん)とは、植物から作られた食べ物のことで代表的なものは次の通りです
・野菜
・果物
・穀類(ごはん、パン、麺、オートミールなど)
・豆類(大豆、納豆、豆腐、レンズ豆 など)
・ナッツ類(アーモンド、クルミなど)
・植物油(オリーブオイル、ごま油など)
植物性食品は、ビタミン・ミネラル・食物繊維が豊富で、腎臓・心臓・血管の健康にも良いとされています。
②超加工食品を減らす
超加工食品とは、
食品を長く保存したり、味・食感を強くしたりするために、たくさんの加工や添加を行った食品のことで代表的なものは次のとおりです。
・スナック菓子
・菓子パン
・清涼飲料水
・インスタント麺
・加工肉(ハム、ソーセージなど)
・ファストフード
③管理栄養士によるタンパク質・ナトリウム・リン・カリウム管理
・タンパク質摂取
CKD患者は 0.8 g/体重kg/日 が一般的な目安。
・カリウム管理
G3〜G5では、果物よりも 加工食品の制限 が重要。
・運動
適度な身体活動を推奨。
心血管リスク管理
CKDは心筋梗塞・脳卒中のリスクが高いため、積極的な管理が必要です。
・血圧を適切に保つ(RAS阻害薬が有効)
・LDLコレステロールを下げる(スタチン)
・血糖管理(SGLT2阻害薬も腎・心臓を守る)
・禁煙
・適度な運動と体重管理
・必要に応じて心電図・心エコーで定期チェック
・心房細動があれば抗凝固薬の内服
4. 薬剤管理
腎機能に応じた薬剤調整
GFRに合わせて投与量を必ず調整する必要があります。
避けるべき薬剤
・NSAIDs
・特定の抗菌薬(アミノグリコシドなど)
サプリ・市販薬の注意
一部のサプリや漢方は腎毒性の報告があり、自己判断での服用は危険です。
シックデイ・ルール
急性期(脱水・発熱など)では、
・メトホルミン(糖尿病の薬)
・ACEi/ARB
・SGLT2阻害薬
などを一時中止することがあります。
ただし 再開忘れは重大な害につながる ため、医師の指示が重要です。
5. 腎臓専門医へ紹介すべきケース
紹介の判断基準
・eGFR <30
・ACR ≥300 mg/g
・多剤抵抗性高血圧
・原因不明のCKD
・電解質異常(高K血症)
・貧血・骨疾患・低栄養などの合併症管理が必要な場合
教育プログラムの重要性
患者様が
・CKDの理解
・腎機能低下の進行を遅らせる方法
・透析・腎移植などの治療選択肢を知ることで、セルフケアが向上し予後改善につながります。
金子内科(横浜市神奈川区・片倉町)でのCKD診療
当院では以下の診療を行っています。
・CKDの早期発見(尿検査・血液検査・腎エコー)
・糖尿病・高血圧・脂質異常症の総合管理
・SGLT2阻害薬・RAS阻害薬の適切な導入
・腎臓専門医と連携した高度医療紹介
CKDは早期に見つけて適切に管理すれば、進行を遅らせられる病気です。
気になる症状や健診異常があれば、お気軽にご相談ください。
よくある質問
- CKD(慢性腎臓病)は治りますか?
- 一度低下した腎機能を「元通り」にするのは難しいとされていますが、
原因となる病気(高血圧・糖尿病など)の治療や生活習慣の見直しで、
• 進行を止める
• 進み方をゆるやかにする
ことは十分に期待できます。
「もうダメ」と思わず、早めに治療を始めることが大切です。
- CKDはどんな症状がありますか?
- 初期〜中等度までは、ほとんどの方が無症状です。
進行してくると、
• むくみ
• だるさ・疲れやすさ
• 息切れ
• 食欲低下
• 尿の量・色の変化
などが出ることがあります。ただし症状だけで重症度を判断することはできないため、
定期的な採血・尿検査がとても重要です。
- 水分はたくさん飲んだ方が良いですか?
- 「水をたくさん飲めば腎臓に良い」というわけではありません。
• 心臓病やむくみがある方
• 進行したCKD(ステージG4〜5)の方
では、水分を摂りすぎると心不全やむくみ悪化の原因になります。
一方で、脱水も腎臓に負担になります。
適切な水分量は人によって違うので、主治医から具体的な目安を聞いておきましょう。
- どのくらいの頻度で通院・検査が必要ですか?
- CKDのステージや合併症によって異なりますが、目安としては:
• 軽度(G1〜G2+軽い尿異常):3〜6か月に1回
• 中等度(G3):1〜3か月に1回
• 進行例(G4〜G5):1か月に1回以上
の通院・検査フォローが必要になります。
主治医と相談しながら、自分に合った間隔で定期的にチェックしましょう。
- 透析が必要になるのはどんなときですか?
- 一般的には、
• eGFRがかなり低下して(多くは15未満)、
• むくみ・息切れ・食欲不振・倦怠感などが強く、
• 薬や食事療法ではコントロールが難しくなったとき
に透析が検討されます。
いきなり「明日から透析」ということは少なく、
通常はかなり前から主治医と相談しながら準備を進めます。
必要なときには、腎臓専門医や透析施設と連携して治療方針を一緒に考えます。
- CKDでも旅行や外出はできますか?
- 体調や腎機能が安定していれば、適切に準備すれば旅行や外出も可能です。
• 薬を多めに持っていく
• 水分・塩分のとりすぎに注意する
• 長時間の無理な歩行や暑さ・寒さを避ける
などに気をつけましょう。
長期旅行や海外旅行を予定している場合は、事前に主治医に相談すると安心です。
- いま私が一番気をつけるべきポイントは何ですか?
- CKD治療の基本はシンプルで、
1. 血圧を良い状態に保つ(減塩+薬物療法)
2. 血糖・脂質をコントロールする
3. 喫煙していれば禁煙
4. 処方薬・市販薬・サプリを自己判断で増減しない
5. 定期受診と検査を続ける
この5つがとても大切です。
細かい目標(血圧の目安・食事の量など)は、一人ひとり違うので、
主治医と一緒に「自分用の目標」を決めていきましょう。
<監修者情報>
本記事は、横浜市神奈川区「金子内科」院長 安藤智(内科専門医・循環器内科専門医)が執筆・監修しています。
総合病院勤務時代より、高血圧、糖尿病、心不全、心血管疾患など生活習慣病外来を担当し、CKD患者の管理に関わってきました。
現在も地域のかかりつけ医として、生活習慣病やCKDの早期発見と進行抑制に重点を置いた診療を行っています。
内容は KDIGO 2024 および 日本腎臓学会「CKD診療ガイドライン」を基に、一般の方向けにわかりやすく再構成しています。
<注意事項>
本記事は一般的な医療情報であり、個人の診断・治療を指示するものではありません。
検査値や治療方針は年齢・体格・併存疾患・服薬歴などによって異なるため、必ず医師へご相談ください。
参考文献
・KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for Chronic Kidney Disease
・日本腎臓学会「CKD診療ガイド2024」